置き畳ができるまで①|「あなたが知らない い草の世界」

最近、少しずつ秋めいてきました。この時期になると畳の上で食べるりんごが美味しく、とても幸せな気持ちになる金井です。

そして、この時期と言えば、い草農家さんがい草の植え付けを行う時期でもあります。植えつけは、来年収穫するい草を田んぼに植えていくことなのですが、、

とここで、ふと、気づきました。畳職人である自分は当たり前のことでしたが、みなさんはい草のこと知っているのか、畳や置き畳にい草が使用されることを知らない方がいるのではないか、と。

というわけで「置き畳ができるまで」を何回かにわけてご紹介していこうと思います。第一回目はをお届けいたします。

い草

そもそも「い草」って何だろう?

い草のプロフィール

い草は漢字で書くと「藺草」、別の名を燈芯草(トウシンソウ)。燈芯草の由来は、茎の髄を燈明(とうみょう)やロウソクの芯として使ったことからつけられたとされています。
花言葉は「従順」「堅く信じる」「信じて疑わない」などがあるようです。

湿気の多い土地で生える多年草(多年草とは、季節が変わっても枯れることのない植物のこと)であるい草は、性格に例えるなら、少しのことでは挫けない辛抱強い人。

い草は、お米のように田んぼで生育を行い、11月から12月に冒頭で話した【植えつけ】、冬を超え翌年の6月〜7月に収穫を行います。

い草がほかの植物と大きく異なる点は、葉がなく茎だけが伸び、収穫時期にはおよそ1.6mほどにもなります。 この茎の部分を編み込んだものを「畳表」と呼び、畳や置き畳の材料となります。金井畳店では、お客様にわかりやすいよう「お寿司のネタ部分」だったり「お顔になる部分」と説明しています。

い草

国産い草と海外産い草

い草の生産地には、大きく分けると国産・海外産の2つがありそれぞれに特徴がありますので、メリット・デメリットをみてみましょう。

海外産い草

海外産い草とは、中国などの海外で生産されたい草のこと。

【メリット】

  • 安価であること

【デメリット】

  • 「耐久性」が弱い
  • 着色剤を使用している
  • 海上運送するため、必要以上に火力乾燥しているため、表皮がもろい
  • 「安心・安全性」が心配(輸入品となり生産者の顔が見えない

国産天然い草

国産天然い草とは、その名の通り国内で生産されたい草のこと。

【メリット】

  • 「耐久性」が強い(高い泥染め技術と肥沃な土壌で十分な長さまで育てられたい草)
  • トレーサビリティがしっかりしていて生産者の顔が見える「安心・安全性」(QRコードで管理)

【デメリット】

  • 市場に出回る絶対量が少ないことが挙げられる。

国内の市場に出回っている畳・置き畳の多くは、安価で手に入れやすい海外産のい草が使われている一方、社寺・仏閣の畳では国産天然い草が主流となっています。「耐久性」・「安心・安全性」など長い目でみた場合、国産い草の方がより長持ちして快適にお使い頂けます。

kanaiブランドでは、国産天然い草を農家さんより産地直送をしているので、生産者さんの顔が見える「安心・安全」な畳表となります。

国産天然い草はどこで収穫される?

国産い草の生産地

国産と海外産のい草があるのがわかったところで、ここで質問。
みなさんは、国産天然い草の生産地第一位はどの県かご存知でしょうか。。
ヒント!ゆるキャラ ”くまもん” が国産い草をPRして、、。

ここまで言ってしまえば大ヒントでしたね。正解は、熊本県です。
国産い草のおよそ98%が熊本県で生産され、次いで福岡県が第二位。(参考|地域の入れ物)
なかでも熊本県八代市は”い草収穫量日本一”。雨量が多く比較的暖かい環境の熊本県は、い草の生育に良いとされています。

熊本県八代市 い草を生産する農家さんの仕事

私を含め畳職人たちがお世話になっているい草の農家さん。

今回は、畳職人のもとに畳表が届くまで、い草の農家さんがどのような仕事をしているのかをご紹介します。

  • 育苗・苗堀(8月)
  • 植え付け(11月〜12月)
  • 先刈り(5月)
  • 網張り
  • 収穫(6月〜7月)
  • 泥染め・乾燥
  • 製織
  • 仕上げ
  • 出荷

農作物を作っている農家さんに共通して言えると思いますが、農家さんが時間と労力をかけてつくる作物であることがわかります。

もう少し、細かくご紹介をします。

育苗・苗堀
(8月)

 

「育苗」とは、親苗からわけたい草の苗(子供の苗)を畑に植えつけ育てます。8月に畑から苗を掘り出す「苗堀」を行い、今度は田んぼに場所を移して苗を育てていきます。

植え付け
(11月〜12月)

いざ、この時期にようやくい草を本田(収穫まで育てる田んぼ)へと植え付けていきます。

先刈り
(5月)

先刈りとは、い草の先端を刈り取ること。根本まで日光を届け新芽の発芽をうながし、質の良いい草に育つようにする作業です。

網張り

収穫直近のい草は150cmにも成長するので、風などで倒れないよう水田全体に網を張ります。このひと手間をすることで、ぴんとした真っ直ぐない草に成長していきます。

収穫
(6月〜7月)

育苗からようやく1年、収穫します。収穫作業は、朝3時から夜8時まで広大な畑からい草を収穫していきます。

泥染め・乾燥

刈り取ったばかりのい草って薄い緑色ですよね。これは、泥染めを行なっているためです。泥染めをおこなうことでい草に艶をだすと同時に「耐久性」を高くしていきます。その後、乾燥機にかけてい草を乾燥させていきます。

製織
(せいしょく)

泥染めが終わったい草を均一の長さに選別後、織り込み一枚のござに。こうして出来上がったものを畳表と呼びます。この作業には、なんと1年もの時間を要します。

仕上げ 降り上がった畳表に傷などがないか最終チェックを行なっていきます
出荷 出荷され、私たち畳屋さんの下に届きます。

い草の収穫

い草の収穫の様子

表にしてみると、改めて大変な作業であることがわかります。

よくお客様に「網目の細い畳表をどのようにつくっていますか?」「畳表をつくるのは大変でしょう。」などのお声をいただきますが、収穫から製織まで一貫して行なっているのはい草農家さんになります。

私たち畳職人はい草農家さんが丹精こめて作った畳表を一番最適な畳床・へりなどを使い、畳へと仕上げる、例えるならば寿司職人です。寿司職人は届けられた新鮮なネタをお客様に「美味しい」と言ってもらえるよう握りますよね。

最後に

いかがでしたでしょうか。

今回はコアな「あなたが知らない い草の世界」をお送りしました。

kanaiブランドでは、畳を後世へ届ける信念があります。
そのためには、い草の農家さんはとても大切な仲間となり、
お客様にい草の魅力・い草農家さんのお仕事を知ってもらえたらと幸いです。

「い草」のこと、ほんの少しでも知っていただけましたら幸いです。

次回は、「い草の収穫の様子」をお送りしたいと思います。

い草の雑貨たち

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